6月下旬、北海道の十勝方面、幕別町にある瀬上製材所さんへ見学に行ってきました。

瀬上製材所さんはカラマツをメインとした製材所で、原木丸太の状態から構造材、内装材、流通に使われるパレットを作っています。
杜建築アトリエで設計監理した「小さな土地の二階リビングの家」のカラマツ無垢フローリングもここ、瀬上製材所さんが製材したものです。
このフローリングが丸太から製品になるまでにどのような工程を辿っているのか、生産者の方のお話を多量の木材に囲まれれて伺える喜び。とても楽しみにしていました。
場内に入ると丸太の山積みに圧倒。木の香りに気分も上がります。カラマツが主ですが、道南杉、トドマツといった他樹種もあります。
丸太の中心部が赤身、辺部が白太という特徴の道南杉。
他の樹種に比べて鬼皮に赤みがなくて白く、若干黄色味のあるトドマツ。
最後に赤みのある鱗のような鬼皮のカラマツ。
3種ならんでみる状況におなかいっぱいです。どれもこれも北海道の山から降りてきて使われるのを待っている状態。



北海道の建築現場で使う柱は105×105が多いですが、無垢材でその寸法をとれる丸太は30年〜40年生以上の丸太とのこと。
私が生まれて40うん年なので思わず自分と重ねつつ考えてしまいます。
木材という素材にどうも親近感を感じるのは成長と使われる年月が近いこともあるのではと思え、私にとってやはり木材は興味深い素材です。
場内の丸太は直径毎に仕分けがされ、鬼皮を向く機械に通されていきますが、この時に出た鬼皮などの端材はチップとなり、製紙工場などへと運ばれていくとのこと。

場内には乾燥機が2機。構造材用とそれ以外のもので使い分けられているとのこと。
原板を乾燥釜に入れて。構造材、内装材によって、材料の厚みが異なるため、目標の含水率に向け乾燥日数などを調整しつつ、乾燥されていきます。
乾燥された木材は加工場へと移動。
丸太の状態から乾燥に入る段階のフローリング材の原板が、乾燥機の傍に。

フローリングの製品寸法は幅90mm厚み15mmですが、乾燥や加工を考慮して2割くらい大きめに作られている様子。その原板をどの程度にするかの匙加減も製材所の力の蓄積なのだろうと感じます。
カラマツは前述の他樹種に比べて強度や耐久性が高いところが魅力の材料ですが、乾燥によるねじれが大きいのが難点。
瀬上製材所さんは、このねじれの強い癖のあるカラマツを建築材へ使えるように、力を入れて試行錯誤されてきた会社です。
暴れ馬的なカラマツが冬の北海道の住宅(暖房しっかり、乾燥多め)で遜色なく使えるようにするには、含水率をある一定のところまで下げて、ワレやねじれを置きにくくする技術が必要。
この乾燥技術を裏付ける建築材は「コアドライ」と名付けられていますが、北海道内でコアドライを作れる会社は3社ほどしかありません。そのうちの一つが瀬上製作所さん。
そしてさらにその後、実際の建築現場からの声をもとに大工さんが加工も行いやすい木材の質感になるように、かつ、コアドライほどではないけれども変形もある程度抑えられる含水率に調整した建築材「ドリームラーチ」を瀬上製作所さんが開発されました。
地域で蓄積されてきたカラマツ材が住宅や建築現場で使われてほしいと切に願わないとこんなに大変な技術の蓄積には至らないのでは。
言葉が単純で申し訳ないのですが、本当に情熱のある素晴らしい技術です。
これらの技術が活かされた構造材は品質検査の結果を製造番号で管理されています。QRコードで性能情報を確認することも可能。

丸太の集積所から移動して、2024年に建築されたという新加工場へ。
外装には170mmほどもある幅広のカラマツ材が無塗装で使われて、方位による木材変化が見られて興味深いです。

自分達のところで自社製品を実験する、先ほどの乾燥技術しかり、瀬上さんの実直さを感じずにいられません。
従業員の方の休憩所はショールーム的に見立てて、製造している内装材を様々使い。カラマツ以外の樹種もあり。
下の写真は休憩室の床ですが、中央部分の赤身のある板目(山や波状の木目)の部分がカラマツの板目の節無しフローリング。
パネルヒーター付近の節がいくつもある範囲が杉のフローリング。
同じ床続きで同じ板巾で見比べられることがまた珍しく面白い。

製材された構造材などをストックしている倉庫、乾燥から終わった材料からフローリングなどの製品へと製材する加工場などと棟別になっています。
内装材も1枚ずつ、商品の強度、含水率を機械を通して測定されてチェックされています。

強度的に製品化OKなものか、乾燥や再調整必要なものかが自動で分別されていきます。
こうして構造材も内装材もひとつひとつ数値でも品質管理されています。


そして内装材の見た目の仕分け方ですが、カラマツのフローリングについて。
カラマツの厚み15mmのフローリングは、その薄さやカラマツの樹種特徴ゆえ、硬い「死に節」や穴となってしまう「抜け節」がそれなりの頻度で現れてきます。
穴はもとより硬い欠けは靴下等、足で引っかかったりしてしまうため、これらの死に節や抜け節は安全を考えて取り除くことに。
ここは自動化された機械ではなく、人の目で一枚一枚目視で確認し、丸のこでコツコツとカットしているとのこと。厚み15mmの板目のカラマツフローリングでは、短いものだと455mm程度の長さになることもありますが、それらもなるべく材料を無駄にしないようにストックされていきます。

カットされて使われなくなった端材も、前述の鬼皮と同じくチップなどになり、製紙などに生まれ変わることに。木材は余すところなく使われる尊い材料だと思えます。
とはいえ、なるべくならチップではなく、用材として価値の高い材料で木取りできるほうが何より良いはず。
瀬上製作所さんから、柾目と板目、節の出方等のお話を伺いながら、短い長さもあるけれども枚数が多く取れやすい板目の無節のフローリング厚み15mm材の価値、材積は増えるけれども厚物30mmで節ありのカラマツフローリングの価値等など、作られている材料の特徴を元にいろいろなことに思いを馳せられる時間でした。どれも使ってみたい材料ばかり。
限られた太さの丸太の断面からどう採れば求められる品質と量を作ることができるのか、と考え抜くところは、無垢材の用材ならではの事だと思います。
砂利やセメントといった流動性のある材料を型枠に流し込んで作るRC造とは考え方が違います。
木材の製材は家庭料理と似ているような気もしてきました。
野菜で言うとひと玉のキャベツを目の前に、外側の薄く広い部分はロールキャベツといった包み系の料理に、中間部でぎゅっと締まった部分は千切りや炒め物に。芯に近い部分は煮込みに。
すべてがそう使うわけではないけれども、どの部位がどうなれば美味しくなるのかと考えること。無駄なく使いたいと心の中では思います。

「小さな土地の二階リビングの家」でも、前述のとおり、瀬上製作所さんのカラマツ板目の乱尺フローリングを使っています。
製材所で手塩にかけて作られた材料は実際の工事現場へ移動し、大工さんが長さや木目の異なるフローリング材をどう使っていくと部屋毎に綺麗に見えるかを工夫し判断して施工していきました。


製材所と大工さんの腕の掛け合わせで、整然とした美しい仕上がりが完成。
(小さな土地の2階リビングの家も、竣工から1年10か月ほど経ちました。最近伺ったところ床のカラマツも赤深く濃く変化し良い感じに。こちらもそのうちブログにアップしたいと思います)
山を維持する方々、木材の特徴をとらえた技術を持つ製材所の方々、受けとった材料を生かした施工ができる施工者、価格や内外装の全体のバランスを考えた上で選ぼうとする設計者、木の住まいで暮らしたいと思うオーナーさん。
この住まいは誰ひとり欠けても出来ません。
この北海道の山で生まれた木材が、試行錯誤の中積み重ねられた技術、生活シーンを想像した人の感覚による工夫をし、美しくかつ安心して使える住空間へと生まれ変わる。
製材所を見学させていただき、その一連の流れの価値と北海道の木で作る家の価値をまた一層感じることができました。
今後もお伝えしていきたいと思います。
瀬上製作所さん、この度は見学をさせていただき、誠にありがとうございました。